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2017年1月18日 - 書評のコーナー ~その37~

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新刊が出たとの事で喜び勇んで読んでみましたが、残念ながら美味しくありませんでした。今までの作品に大きなハズレがなかっただけに残念です。  鴨川ホルモーしかりしゅららぼんしかりプリンセストヨトミしかり、今までの万城目ワールドは、実在の場所や建物に馬鹿馬鹿しくもあり得ないような仕掛けを施して独自のワールドを展開してゆく手法だったのですが、今回は何から何まで読者にとっては架空の場所。とある市街地の雑居ビルが舞台です。

その雑居ビルの管理人をしながら小説を書いている気の弱い青年が主人公。実際のところ、作者が小説家になるまでビルの管理人をしていた訳なので、主人公と自分が重なるのでしょう。鬱々たる心情描写は出来ているのですが、自伝的な意味もあり照れもあるのか主人公の動きにキレがないです。極めて常識的な思考回路と行動をとっています。

そして、その雑居ビルで妙な事件が頻発します。泥棒が入ったり、大きなネズミが出現したり、探偵にベロベロに飲まされて原稿盗まれたり、屋上にカラスが集ったり。そして、カラスの目をした黒衣の女性が登場してバベルの扉なるものをよこせと。黒衣の女性がカラスの化身であるところまでは飲み込めても、カラス達が追いかけているバベルの扉なるものが一体何なのか、最後まで解りませんでした。読了してもいまだ不明です。そして、自分たちは太陽の使いであるとか、バベルがあると影の長さが変わるからいけないのだとか滔々と説明するのですが、さっぱり解りません。ただでさえ設定が解りにくいのに、途中から主人公がパラレルワールドに滑り込んでしまいます。

更に、パラレルワールドの設定がまた解りにくい。時間軸のずれている、メビウスの輪的な世界を書きたかったのでしょうが、上手く行きません。場所を琵琶湖畔高島辺りにして八百比丘尼でも登場させればまだ解りやすくできたのでしょうが、時間の止まった湖、エンジンのない車、年を取らない少女と伸び続ける塔。そしてカラスの目をした黒衣の女。超能力をもった老人が黒幕で実はその伸び続ける塔の管理人であるとか。「?」は増えるが一向に解説されません。そうこうしている間に老人が弱ってきて成敗されて終了。結局バベルは何だったのか、バベルは崩れたのかよくわかりませんでした。読了しても、もやもやが残るのみでした。目指すところ書きたいワールドは何となくわかるのです。年代的に推察すると、うる星やつらの映画で「無邪鬼」なる妖怪が出てくる「ビューティフル・ドリーム」という作品があるのですが、恐らくはその世界観も取り入れたかったのではと邪推してしまいます。何となく、何となくは解るのですが、描ききれていませんでした。

好物のアスパラガスを食べたら、穂先の方まで筋だらけで硬くて美味しくなかった。楽しみにしていたのに残念。こんな感じでした。

えっ。今回はこのコーナーも解りにくいって。まあ、読んでみて下さいな。こんな解説しか書きようがありませんから。