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2018年9月20日 - 書評のコーナー ~その49~

10300[1]蜂蜜と遠雷

直木賞と本屋大賞受賞しております。表紙も草原を描いたような図柄でタイトルが蜂蜜と遠雷。ファンタジー的な第一印象でした。しかし気になったのは幻冬舎。この出版社、凡庸な本はあまり出版しません。ひっくり返して裏表紙を見てみると、どうやらピアノコンクールの話。ピアノには興味はなく音楽にもさほど興味もありませんでしたが、幻冬舎・上下二段組の500ページに何やら名作の匂いがしたので読んでみました。結果、蜂蜜は出てきませんし、雷も一度鳴っただけです。この際、タイトルからは内容は一切推測できません。10日間にわたるピアノコンクールを舞台とした出演者の人間模様を描いた小説です。殺人事件も起きませんし、詐欺や窃盗を働くような輩もいません。ただ只管にコンクールの様子を詳述しております。

ところがこの詳述具合が徹底しております。審査員の人となりとその派閥やら私生活やら。当然出演者の人となりも詳述されております。ヒーローはいませんが、キャラは立っております。天才少年やら元天才少女、美形でハーフの天才演奏者やら。現在ではほぼ市井の人と化している元ピアノマン。舞台は音楽大学やらコンサートホールやらに限定されておりますが、とにかく描写が細かい。ヨーロッパの作家さんの翻訳を読んでいるのかと錯覚しそうになるくらいです。

ピアノコンクールがいわゆる一回戦、二回戦と進むにつれて出場者が減ってゆきます。減ってゆく中で、1人の天才少年が触媒となっていろいろな人の才能が開花してゆきます。開花するといっても、音楽の才能と熱意が開花するわけでこんな表現しにくいものはないのです。この音楽性の進化を上手に、具体的には表現しにくいけれども確かに読み手に伝わるように描写しております。普段は一切クラシックを聴かず、ピアノを弾くと右手と左手が一緒に動いてしまう私が読んでいても、ああこのひと巧くなってると解るほどです。

ものすごい落ちがあるわけでもなく、激しい伏線回収があるわけでもなく、このコンクールの期間を登場人物たちと一緒に過ごせた充実感を味わう、そんな作品です。

恩田陸、寡聞にして存じ上げませんでしたが、後で調べてみるとえげつない量の作品群であります。いくらプロとはいえ、書きすぎでしょう。これだけ書きに書いてこの表現力に至ったわけかと合点が行きました。

ピアノ弾ける人、クラシック好きな人であれば、さらに楽しく読めたでしょう。