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2019年10月17日 - 書評のコーナー ~その60~

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スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼

 

小説新人賞の一つ、「このミステリーがすごい!」大賞出身の作家さんです。残念ながら優秀賞ではなく「隠し玉」としてデビューしましたが、受賞作の「スマホを落としただけなのに」は、北川景子主演で映画化までされました。

この夏、お盆の移動中に読むものが無くなり、コンビニで調達。いつかは読まないといけないと思っていた作品でして、副題の「囚われの……」が気になったものの、映画化されたから題名変更したのかなくらいに考えていました。

しかし、読み進めると妙な違和感が。確か、スマホを落として、それが為にいろいろな事件に巻き込まれるという話だった記憶だったのですが、どこまで読み進めても、誰もスマホを落としません。一度男性がスマホを落とすというエピソードが挿し込まれていましたが、軽くスルーです。内容的には、シリアルキラー(連続殺人鬼)を逮捕したものの、被害者の数が合わないことから真犯人を探すという内容です。その過程で、ハッキングによりPCのカメラが作動したり、ウイルスによるスマホの乗っ取りなど、PCウイルスあるあるの話がてんこ盛りです。旅先でしたが、早く帰宅して自宅のPCのウイルスチェックをしてみたい衝動に駆られます。基本的には連続殺人事件の解決が軸ですが、ビットコインの横領事件やハッカーとホワイトハッカーの対決などなど、近年のPC依存社会に対するいろいろな意味での注意喚起が盛り込まれております。

基本的に誰でも読めますが、成功者Kや教団Xほどではありませんが、下ネタも含まれておりますので、中高生が通学途上で読むには相応しくありません。また、PCに全く興味がなく、IPアドレスって何?という人も、読んでいて途中で飽きるかもしれません。

読者をミスリードしておいて、最後にどんでん返しを起こして秘密の開陳という手法は、非常にお手軽なので、ああそう来たかという印象は否めませんでしたが、よくこんな面倒なプロット作ったなとここは感心ものです。主人公にピンチを与える、一難去ってまた一難の展開にすることで読者を飽きさせない。エンタメ小説の基本も抑えております。そして、話を進める主体者をA・B・Cで区分けして、視点を変えて話を進める手法も悪くはないです。このように、纏まったパラグラフをラベル付けして視点を変えてゆくこの手法は、伊坂幸太郎が好んで使用しておりますが、最近の流行なのでしょうか。確かにこれだと感情移入の難しい神視点(小説の作り方の基本です。ググってください)の弱点を補えますが、視点を大切にする大御所の作家先生の受けはよくないでしょう。

さて、本文ですが。結局落としたスマホは出番なしでした。スマホ2個持ちの登場人物もいましたが、2個とも落としません。ハッキングされて終わりです。これはこれで楽しく読めたのですが、どうにも釈然としないので、ネットで調べてみますと、なんとこれは「スマホを落としただけなのに」の続編でした。なんだそりゃ。

が、全体によく書けております。「このミス……」は賞金が高いだけに続編の取り立てが厳しいと聞いております。デビュー作は何年も温めた構想で作れるのですが、厳しい取り立てに加えてデビュー作を超えるべしというプレッシャーの中、これだけ書けたら大したものです。

基本を押さえた、お手本のようなエンタメ小説といったところでしょうか。そりゃ、映画化もし易いでしょう。