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2020年8月6日 - 書評のコーナー ~その66~

51V3NSREZFL._SX326_BO1,204,203,200_[1]太陽の塔

この世には2種類の人間が居ると思うのです。この本を面白いと思う人とそうでない人。そうでない人にとっては、この上なくつまらなく主人公の一挙手一投足がまるで理解できません。なぜそんな行動に出るのか、なぜそう考えるのか。一向に感情移入が出来ないので数ページ読んだところで古本屋行き決定となります。

一方、極貧の大学生活を送り、赤い丸椅子のビニルが破けて中のウレタンがはみ出しているような中華料理店でいろいろ悩んだ挙句一番安いチャーハンを注文して腹を満たし、深夜2時に友人の下宿へバイクで遊びに行き、安酒を飲みながらカーペットの端にキノコを発見して二人で笑い転げるような体験をしてきた人にとっては、幽体離脱してしまいそうなほどに感情移入ができるはずです。

内容的には、彼女に振られた大学五年生の腐男子の話です。漫画の海月姫によって腐女子という言葉は市民権を得ましたが、腐男子はいただけない。いろいろとややこしい匂いが混じっていそうです。その腐男子の手記の様な体で話は進みます。別れた彼女が水尾さんと言うのですが、別れた後も彼女のことを観察して「水尾さん研究」を行っているのです。決してストーキングではなくあくまでも観察研究と言い張ります。変質者と偏執者の境界線です。

友人・知人も一癖あります。必ずするめをライターで炙るやつ、クリスマスになると熱を出すやつ、そして邪眼。こんな馬鹿馬鹿しい連中、まみれたくはないが天井の隅からそっと観察してみたいという衝動に駆られます。

これ全部フィクションであるとすればそれはそれは壮大な妄想癖のある作者でしょうが、多分に実体験に立脚しているものと推測されます。もう少し深堀してみたいので、あと数点読んでみます。

太陽の塔は、重要な位置を占めていますが、本作の重心ではありません。あくまでも重心は「水尾さん研究」です。

私小説と純文学を混ぜて、少し男臭いファンタジーで割ったような作品です。これは、好き嫌いが別れます。