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2024年4月12日 - 4月からの医師の働き方改革

今回は、かなり厭なお固い話です。

知らなかったらよかったと思う人もいるかもしれません。

でも、今後の医療を考えるうえで避けては通れない話なので長文ですが掲載します。

 

この4月から医師にも働き方改革すなわち残業規制が適応されることになりました。他業種に遅れること5年。でも、この5年間で何も準備していない病院がほとんどだと思います。

では、4月から医師の残業はどのように変わるのか。

その前に医師の労働に関しての現状を説明します。

今年の3月まで医師の残業規制はありませんでした。青天井で年間何百時間、何千時間の残業をしても病院側は無罰でした。普通の会社員は36協定で守られていて年間の残業時間が360時間に規制されておりますが、医師のほとんどは36協定という言葉すら知りません。残業に規制があることすら知りませんし、驚くべきことに自分に有給休暇があることすら知らない医師がほとんどです。誇張でもなんでもありません。育休どころの話ではないのです。有給休暇というものを知らないので多少の体調不良は這ってでも出勤します。もちろん子供の学校行事には一切参加しません。入学式などに参加したら、それはいわゆる「ずる休み」扱いです。当然ながら有給の申請をしないので学会出張で休んだらそれだけ減給です。仕事で行っているのに。医者に有休を使われたら病院の稼ぎが減ってしまうので事務方も黙っています。

子供が寝ているうちに出勤して子供が寝てから深夜に帰宅。休日も朝から病院に行っているので、たまに早く帰宅したところ子供から「いらっしゃいませ」と言われたという笑えないエピソードも聞いたことがあります。

私事ですが、吐血が発生すると夜間でも休日でも旅行中でもお構いなしに24時間365日呼ばれていました。さながら呼べば出て来る「ハクション大魔王」扱いです。もちろんそれでは体がもちませんでした。

この激務は病院に限ったことではありません。大学院もかなりハードでした。

忘れもしません。4月1日に大学病院に行くと、指導教官から最初に聞かれたのが「先生、終電何時や?」です。もちろん帰宅は毎日午前様です。東京の癌研に行った先生は、「2時からミーティング」と言われた場合は午前2時からのミーティングだと言っていました。

 

さて、4月からどのように残業規制がかかるのか。

基本的に時間外労働は年間960時間までに制限されました。これは一般にいうところの月80時間の過労死ラインぎりぎりです。そして救急病院などの特殊条件下では年間1860時間までOKになりました。月155時間です。過労死ライン80時間のほぼ倍です。それでも当局の規制がかかっただけマシです。しかも、これらには日当直は含まれていません。

日当直を含めるとあっという間に1000時間を超えてしまうので、日当直に関しては残業時間にカウントされないような抜け道が用意されているのですがこれを書き出すと長くなります。「宿日直許可」で検索してください。一晩寝ずに当直しても労働時間にカウントされない仕組みになっています。

おそらくほとんどの病院が何の対策も打てないまま4月を迎えていると思います。慌ててタイムカードを導入している病院も多いと思います。残業規制のため、救急外来を縮小したり土曜日の外来を取りやめる病院もすでに出ております。医師の仕事を減らすために他業種に仕事を割り振るいわゆるタスクシフトを推進すべきだという意見も多いのですが、現場的にはそんなに事務仕事は負担になっていないと思われます。皆さんそれなりの好成績で大学受験を突破してきているので、ねじり鉢巻きで集中すれば溜まった仕事は一晩で消化できるはずなのです。タスクシフトと声高に叫ぶと雇用創出にはなるのでしょうが、医師の業務軽減に役立つかといわれると若干疑問が残ります。

では、何が残業時間増加の原因になっているのかというと、術後の経過観察を別にすれば、重症患者の対応を含めた病院からの休日夜間の呼び出しが圧倒的に負担になっているのです。当直を含めて36時間連続勤務してようやく帰宅したと思ったら、容赦なく病棟から呼び出しがかかるのです。血圧が下がり始めましたとか家族が説明を求めていますとか……。

病棟的には患者とその家族の求めに応じて主治医を呼び出しているわけなので罪はないのですが、呼ばれた医者は当直明けの重い体を引きずってまた病院に赴くのです。こうやって入浴と夕食の3時間程度のインターバルを挟んでのほぼ52時間連続労働が完成します。そしてその数日後にはまた当直……。

夜中の呼び出しを減らすために、主治医制をやめて主治医団による治療も検討されておりますが、1人で大体10-12人の患者を受け持っており、3人で主治医団を形成すると3人分の患者ほぼ40人を把握しておかないといけないのでこれはこれで大変です。医者の数を増やすしか解決策はありませんが、そう簡単にはいかないでしょう。あとは患者家族からの病状説明です。患者家族は全員で病状を聞きたいというものわかりますが、どうしても皆さんの仕事が終わってから集まると午後9時や10時からの説明になります。7時に集まったらラッキーです。平日が無理という人は休日にやってきて突然説明しろと言ってきます。重症患者を7-8人抱えてそれぞれに対応していると、患者説明だけで帰宅はほぼ深夜、そして休日はほぼ全滅します。

現時点では病院自体がまだ医師の勤務実態を把握しきれていないところもあり、5月以降に色々と超過勤務の実態が明らかになってくると思われます。週30時間は当たり前なので、その結果あわてて診療体制を縮小する病院も出てくるでしょう。とくに、医師確保に難渋している中規模急性期病院でその傾向は顕著になると思われます。

そして、勤務実態が明らかになるということはそれに対しての時間外手当が発生するということにもなります。信じられないことですが、医師は時間外手当の申請をほぼしておりません。自己研鑽という名目で残っていたり、重症患者がいると帰ってもすぐに呼ばれるので遅くまで残っているということが多いのです。これらに対して給与が発生すると病院経営に大きな負担が生じてきます。今まで支払っていなかったことが問題なのですが、衝撃の人件費増加になると思われます。

人様の命を預かる仕事としては、自分の命を削ってでも修練しないといけないという風習がこの業界にはありまして、そのため本当に命を落としてしまう人もたくさん出ております。自死だけではなく、激務の果てに夜中崩れるように寝入って、翌日目が覚めなかった医師を個人的にも知っております。

鳴り物入りで導入された医師の働き方改革が本当に医師の命を守る改革になるのか、タスクシフトという名のもとに人材派遣会社が潤うだけの結果になるのか、今後厳しく注視していく必要があります。