ミカエルの鼓動
医療物です。ジャンルはと問われるとこれが難しい。ミステリーではなくエンタメ要素も少なく、謎解きも大したものはなく。それなりに事件は起きてはいるものの、これといった捻りもなく、「まあ、そうなるだろうな……」と言った展開です。ですが、直木賞候補作です。
お仕事小説を基本にして、登場人物の心の揺れを書き綴った、半分純文学的な要素が入っています。なので、地の文を適当に読み飛ばして会話だけ読むスタイルの読者には、少しご不満が残るかもしれません。
舞台は北海道の大学病院。基本的な流れは、心臓血管外科の手術の将来を巡って、2人の医師がぶつかり合うというあらすじです。1人は大学病院でロボット手術の名手と謳われる西條。ミカエルはその手術支援ロボットの名前です。現実成果ではダビンチと言ったところでしょうか。そこへ従来方式の開胸心臓手術の名手である真木がドイツから招聘されます。呼んだのは大学病院の病院長。この二人が、とある少年の手術を巡って真正面からぶつかり合います。しかし、唐突にドイツから招聘された真木の謎が多すぎて没入できません。伏線らしきものも一切なく、無いので回収作業もありません。
そして、一般の会社と異なる医療業界の院内ヒエラルヒーの説明や、病院長や副院長のポストをめぐって根方術数を巡らせる院内政治の話が長くて閉口。500ページもあるのに最初の200ページまではほぼこの話に費やされます。その後、丁々発止とまでは行かない2人の術前のやり取りに紙面を割き、手術のシーンは僅か。その後、「実は……」という謎解きにもならない真木の過去の説明が続きます。
テレビのブラックペアン的なエンタメ要素を期待して読むとがっかりします。
大学病院でのポストを巡る院内政治のかけひきを見てみたい、主人公の心の揺らぎを見てみたい、そんな人にはお勧めですが、ドロドロの教授選をリアルで見聞きしてきた私的には今一つでした。