スピノザの診察室
大学病院で将来を嘱望されていた凄腕内視鏡の消化器内科医の雄町哲郎が、思うところあって妹の死を契機に京都の市中病院に再就職。しかしこれがまた、大学から院生がバイトで行くような小さい病院で、常勤医は4-5名で医局にはテレビゲームが置いてあるという少し力の抜けた病院。実際に私が院生の時に行っていた病院もそんな感じでありました。
現役バリバリだった雄町哲郎が、大学病院での最先端の医療から実地医科に転向し、地に足のついた医療を実践する様を描いた作品です。
とはいえ、ただ単に医療現場を詳述した単調な作品ではなく、大学医局への若干の皮肉も混ぜつつ、本来の医療とは何かを問うような深いテーマにも迫っております。
4部構成でそれぞれにそれなりの事件は起きますが、小説なので当たり前です。
主人公のキャラ的には、どうしても前作の「神様のカルテ」に通ずる飄々とした感じが出ております。しかし、この作者が熱血医師を主人公にするとは到底思えず、芭蕉の言う「軽み」を目指しているのかなと思うほど、平易な描写で深く考えさせる文体となっております。
しかし、特筆すべきはその語彙の広さ。夏目漱石を愛読するだけあって、いろいろな修飾語をご存じです。勉強になります。また、作中の雄町哲郎はたびたび往診に出かけるのですが、その道すがらの京都の描写も上手です。
ちなみに、作中登場人物の名前は日本酒ゆかりの名前が多いのですが、これは意図的にそうしたことであることを本人がテレビの対談で語っておりました。
表紙の絵も良いですね。左京区白川通りの少し西側、昔の京都っぽい風情のある絵です。
琵琶湖疎水というと南禅寺周辺の華やかなものをイメージしますが、古い町屋の中を縫うようにしてサラサラ流れる疎水も良いものです。
実写化が計画されているようですが、ぜひ見てみたいものです。






