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2024年2月21日 - 書評のコーナー ~その87~

成瀬は天下を取りに行く

なるせ

色々と賞を受賞しており、すでに続編が出版されている人気の本です。

いや、やられました。短編小説のお手本のような小説でした。最初に主人公の成瀬あかりの性格をサラッと説明して、ついでにサブキャラ島崎との関係もウイット豊かに描写されていています。とにかく入り方が上手です。この本自体は短編集の体を取っていますが、一貫して成瀬あかり史を構成するためのエピソード集です。サブキャラ島崎が成瀬あかり史を見届けたいと思うのもなるほどと納得するほど、主人公成瀬の性格は際立っています。

ぱっと見はどこにでもいそうな女子中学生。しかし200歳まで生きたいと言ってみたりこの夏を西武に捧げたいと言い出したり。決して巻き込まれたくはないけれども、目が離せない存在ではあります。何ゆえ世の中の人たちが成瀬に夢中になるのか考えてみたところ、特筆すべきはその自己肯定感の高さ。SNSでいいねを貰うことに血道をあげ、動画の再生回数に一喜一憂して、他人からの評価が気になって仕方がない人が多い中、成瀬はそういうものをほとんど気にしません。決して自信家とか自己中心的というものではなく、事象を客観的論理的に分析して最適解を出して超理系的な発想で行動する、とにかく目が離せないのです。

全体として成瀬のキャラにおんぶにだっこ的な感は否めませんが、サブキャラたちがいい味出してくれています。そして、特筆すべきは作者の滋賀愛が濃ゆい。短編集なのですが、その一つ一つが滋賀愛に溢れています。1作目は、成瀬が閉店を迎える西武大津店に夏休みを捧げる話。一体何のことやら意味不明なのですが、本当に夏休みの毎日を成瀬が西武大津店に行くだけのお話です。よくこんなお題で書いたものだと思うのですが、成瀬のキャラと行動力にぐいぐい引き込まれて読んでしまいます。

2話目以降も、成瀬と島崎がM-1グランプリに参加する話や近所の夏祭りの話など、コンパクトな短編が続きます。そしてその一つ一つが滋賀の大津市を題材としたお話で、主に膳所高校の周辺から浜大津のミシガン乗り場までの狭―い領域で話が転がります。お陰様でつい先日大津市観光に行ってしまいました。

続編は成瀬が高校に行ったり大学に進学したりで話が進みます。学年が上がって行動範囲が広がった分、成瀬の活躍の場は広がります。そしてやはり成瀬の行動から目が離せません。しかし、仕方のない話ですが、作中一つだけ無理が出ておりました。それは時制です。西武大津店の閉店時に中学生であるという物語を最初に書いたおかげで、令和6年に大学入学となってしまうのです。この続編を読んでいる時点ではまだ北陸新幹線の敦賀延伸は始まっていないのですが、作中では新幹線敦賀駅の描写が出ております。数年たてば違和感はなくなるでしょうが、これは編集部でも頭を悩ませたことと思います。

お上手でした。